一重まぶたの天然パーマ

さらに言えばニートである。もう手の打ちようがない。

だから僕たちは恋をする

「人が恋に落ちる瞬間」について考えるとき、僕はいつも映画『ハチミツとクローバー』の冒頭シーンを思い出す。
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超が付くほど有名な作品なので説明不要かとも思うけど、一応補足すると美大に通う主人公とその先輩がアトリエで一心不乱に絵を描く見慣れない少女に一目惚れするシーン。

映画自体のデキはあまり覚えていないし、確か原作の漫画版の方が好きだと当時感じた。
ただ、そのワンシーンだけはとても綺麗に脳裏に焼き付いてる。


僕は今年の4月に2年程付き合った彼女と別れた。
彼女の両親と一緒に食事をしたり、彼女の姪っ子の運動会や授業参観に顔を出すほど将来をきちんと考えた付き合いだった。
おそらく順調に言っていれば、そう遠くない将来に結婚をしていたであろう、それくらいの相手だった。

別れた理由は周りの人からすれば些細な事だと思うだろうし、今思い返してみれば何故別れるという程の結論にいたったのか、僕自身もよく覚えていない。
ただ、覚えていないと言うことはたいした理由では無かったのだろう。

記憶にあるのは彼女と一緒にいるととても楽しいけれど、どうしようもなく辛かったということだ。
僕が学生で、彼女が社会人だったからかもしれない。
僕が年上で、彼女が年下だったからかもしれない。
僕が大学を1年半も留年したからかもしれない。

とにかく、別れた当時とても気持ちが軽くなった。
何か肩の荷が降りたような気がした。

普通に学校を卒業して、普通に会社勤めをして、普通に家庭を持つ。
そんな決まりかけた未来が、見えかけた自分の将来像が白紙に戻る時、いいようの無い自由を感じた。


そしてふとした時、とてつもない寂しさに襲われた。
誰かが恋人と別れる辛さを、心が引き裂かれるような痛みに例えていた。
自分の半身を持っていかれるような感覚や、心に穴が空いたようだとも唄ったり詠んだりする。

そういったありふれた表現がとてもしっくりきた。
初めてのことだった。
くだらないと聞き流したどこかで聞いたようなヒットチューンの失恋歌が、なぜ支持されるのか少しわかった気がした。

そして、くそサムイ表現を使えば恋愛って怖いなと初めて感じた。
もう心は完全にマッキーだ。
もう恋もクスリもしない。
だって別れるとき、こんなに辛いんだもん。




それから春夏の間、心の隙間を埋めるように合コンに行った。
Clubにも行った。
Clubの中でナンパなんて今まで数えるくらいしかしたことが無かったのに片っ端から女の子に声をかけていった。
海に行って泳ぎもせず、全然タイプじゃない女の子にLINEを聞いてまわった。

本気で彼女が欲しいわけでも、ワンナイトなラブを探していたわけでも無かった。
なかにはいい感じになれそうな女の子も全くいない訳では無かったけれど、フラグをへし折って歩いた。


そんな風にして半年が過ぎた。

半年前、あれほどもう恋なんてしないと誓った僕は今、
もしかしたらやっぱり恋愛もいいかもしれないと感じ始めている。


それは僕の数少ない友人達が、この半年間でアホみたいに数をこなした合コンや、ナンパのせいで彼女が出来はじめたからかもしれない。単純に失恋の傷が癒えてきたからかもしれない。


でも違うんだよね。

何でこんなに皆が皆、恋愛について語ったり悩んだり、それこそ人生のテーマみたいな重要事項として扱われるのか不思議だった。
恋愛体質の女の子の気持ちが理解出来なかったし、別に恋愛なんて無くても人生に支障は無いと思ってた。


だけど、ようやく歳を重ねて分かってきた。
大人になるたび、人生の経験を重ねるたびに生きることへの新鮮味は薄れていく。
学生時代は感情を揺さぶられるような出来事が多かった。
部活の大会に出場する緊張感や、修学旅行へのワクワク、怒られるかもしれない時の恐怖や、将来にたいする希望。
だけど大人になるとそんなイベントは失くなるし、だんだん慣れてマヒしていく。
やっぱり日常は退屈で、どうしようもなくつまらなく感じて、飽きてくる。

だけど、恋に落ちた時のドキドキはいつも新鮮だし、好きな人がいる時の世界っていつもと変わって見える。

恋愛は人生のスパイスだなんてよく言ったもんだと思う。

しょっぱかったり、苦かったり、辛かったり、甘かったり。


漫画『四月は君の嘘』でも、恋に落ちるとモノクロだった世界がカラフルに色づくだなんて言ってたけど、その通りかもしれない。

四月は君の嘘(1)

四月は君の嘘(1)



だから、これからきっと僕もまた恋をするんだろうな、
なんて考えた秋の夜長。



そんな感傷的な気分にひたる僕でした。
いいでしょ、別に。